伊藤忠商事は社員の働く時間を朝方にシフトさせ残業を減らすため、新たな賃金制度を導入する。時間外手当の割増率を、夕方以降に残業するよりも早朝に勤務する方が高くなるように見直す。家族と過ごす時間などを確保するワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に配慮した働きやすい環境をつくり、業務の効率化や人材確保につなげる。
近く労働組合に提案し、10月導入をめざす。半年間試験導入して効果を確認したうえで正式に就業規則に盛り込む。執行役員や取締役以外の約4千人の全正社員が対象で、海外勤務者も含む。
社員の健康管理などの観点から残業削減に取り組む企業は多いが、掛け声倒れになるケースもある。賃金制度に反映させることで働き方の見直しを促す試みは新たなモデルになる可能性がある。
伊藤忠の就業規則では勤務時間は午前9時〜午後5時15分。残業する場合、午後10時までの勤務には時間あたりの固定給に対して25%の割増金、午後10時〜午前5時には50%の割増金を支給している。
新制度では午後10時以降の深夜残業を禁止。午後10時以降は職場を完全消灯する。そのうえで、従来は25%だった午前5時〜同9時の早朝時間帯の割増率を50%に引き上げる。管理職はこれまで早朝の割り増しがなかったが、25%とする。
原油や金属など欧米市場での国際商品取引や、海外貿易の実務など夕方以降が主な業務時間帯になる部署もある。例外を設ける可能性もあるが、取引を極力現地に任せることなどで残業を減らしていく考えだ。
昨年度の伊藤忠の社員1人あたりの残業時間は月平均37時間だった。早朝に出社し保育園に子供を迎えに行くために定時に帰宅する女性社員などが働きやすい環境づくりにもつなげる。今後は早朝勤務を嫌う社員が仕事を自宅に持ち帰る「サービス残業」への対応が課題になりそうだ。(2013年8月2日 日経新聞)